原題「UNITED 93」/2006年アメリカ/111分
【監督】ポール・グリーングラス
【脚本】ポール・グリーングラス
【製作】ティム・ビーヴァン、エリック・フェルナー
【出演】ハリド・アブダラ/ポリー・アダムス/オパル・アラディン/ルイス・アルサマリ/デヴィッド・アラン・ブッシェ/リチャード・ベキンス
【あらすじ】
あれから5年
忘れないでいてほしい
40名の乗客と乗員に、尊い勇気が生まれたことを
残された家族に、かけがえのない人生が続いていることを
2001年9月11日――
午前8時42分、ニュージャージー州ニューアークからサンフランシスコに向けて、ユナイテッド93便が飛び発った。
その直後、アメリカン11便がワールド・トレード・センター北棟に、続いてユナイテッド175便が南棟に激突した。その時はまだ、ユナイテッド93便の乗客乗員は、何も知らず、穏やかなフライトを続けていた。そしてテロリストが動き始めた。機内の犯人からの声に戸惑う管制官たち。アメリカン77便も、ペンタゴンに墜落。乗客たちは機内から電話で、地上にいる愛する家族と連絡をとりあった。3機の情報を聞いた乗客たちは、確信し、絶望した。自分たちも、どこかのターゲットに向かっていることを・・・。
何もしなければ、他の飛行機のように多くの犠牲者を出す。このままでよいのか。愛する者に最後のメッセージを残して、乗客たちは、確かな勇気と団結力に包まれ、行動を開始した――。
【感想】
パニック映画と言っても良いと思う。
但し、我々は知っている。
パニック映画にさえある一欠片の希望すら与えてくれない、悲劇的な結末を。
「ユナイテッド93」の乗客は、誰一人助からなかった。
これは紛れもない事実である。
映画は二面性を持っていて、ユナイテッド93が離陸し、ハイジャックされ、そして墜落するまでの、遺族からの綿密なインタビューを元に再現された−−機内ではこういうことがあったかもしれない−−ドラマと、アメリカの航空管制の日常が、徐々に非日常に浸食され、貿易センタービルへの飛行機の突入によって、非日常が日常を飲み込んでしまうまでのドキュメンタリーが、交互に描写されます。
ドキュメンタリーの部分、今まさに911同時多発テロが進行していく描写は、ロン・ハワード監督の傑作「アポロ13」を彷彿とさせてくれましたね。ただ「アポロ13」と違って、この事件に対処しようとする人々をあざ笑うかの如く、人間の無力をまざまざと見せつけてくれるのですが。
それよりも何よりも印象的なのは、大穴が開いて黒煙を上げている貿易センタービルと、そこに突っ込んでくる2機目の飛行機の激突した瞬間を捉えたCNNの映像と、それを直接見た人々の衝撃と驚愕と絶望が、寒気がするほど凄かった。
当時、何度も見た映像だというのに、未だに衝撃的です。
そしてそれを見た人々の反応が生々しすぎて、ぞっとしました。
(エンドロールで流れるキャスティングには、「As himself」が多く、その意味でも衝撃的でした。つまり、彼らは実際にあの光景をみた人々なのだ!!)
翻って、ユナイテッド93の機内での出来事は、ドキュメンタリーでありません。
当たり前です、誰一人生存者がいないのですから。
なので、綿密な調査とインタビューを元にしているとは、「こうであっただろう」という想像の範疇でしかなく、少し意地悪に言えば、「こうであって欲しい」という美談めいたものとして捉えられない事もないわけです。
とはいえ、そうは分かっていても、魅入られるように観ていました。
手持ちカメラで撮影された映像は、臨場感と緊迫感を十二分に伝えてくれて、何もかもがリアルです。自分達の飛行機が自爆テロに使われる事を知った時の乗客達の反応や、電話で家族に別れを告げるエピソードなど、生々しすぎです。
「隣の席の親切な人が、家族に電話をと言って、貸してくれたの」と言う台詞は、インタビューなしには出てこないでしょうね。
だからこそ、すごく怖かった。
乗客達は運命に立ち向かうべく、ハイジャック犯に突進していった。
更なる自爆テロを防ぐ為であり、何よりも自分達が生還する為に。
しかし、彼らがどれほど頑張ろうと、私達はそれらは全て徒労に終わる事を知っている。それだけに、この救いのなさが怖かった。パニック映画にある「彼らは一体どうなってしまうんだろう?」というのがないのである。そして、これは現実に起こった事件である事を知っている。
自分もこの悲劇に巻き込まれないと、誰が言い切る事が出来るだろうか。
目を背けたくなる映画であり、目を背けられない映画でもあり。
そんな映画でした。
【総括】85点
凄いパワーを持った映画だと思います。
ただそれは、題材が「5年しか経っていない」からなのか、「5年も経った」からなのか。5年という歳月は、全てを忘れるには短すぎ、鮮明に思い出すには長すぎる期間のような気がしますね。
それでも、ポール・グリーングラス監督の執念みたいなものを感じるのは確か。
アメリカ側、テロ側のどちらかに偏る事無く、中立に描写している点と、乗客の遺族にインタビューと仮説を元に真実に迫ろうとした姿勢は、大いに評価していいかと。もっとも、おかげでドキュメンタリーとフィクションの境界が曖昧になって、純粋に評価しづらいという面もありますが。
それでも今だからこそ観るべき映画だと思いました。
少なくとも、私はあの時、テレビを食い入るように見ながら、チャットしていたのを思い出しました。
あの時を忘れたくないのなら、是非観る事をオススメします。
ちなみに。
興味深かったのは、エンドロールが終わるまで観客が席を立たなかった「時かけ」とは対照的に、この映画ではエンドロールがかかると同時に席を立つ人が多かった事ですね。
何となくその気持ちは分かりました。
エンドロールは、その映画の余韻を楽しむ時間だと思っていますが、この映画の場合、いたたまれないのですよ。最後の暗転を観てしまうと、やりきれない気分になるのは間違いないですからね。「ラストを知っていながら最後まで観てしまった」この映画の事を忘れたくなり、早くこの場から立ち去りたい気分になったのではないか、そんな気もします。
……まあ、感傷かもしれませんけどね。
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